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2年以上の間、男性は家と事故現場の往復を続けている。休む事なく、ずっと、ひたすらに。
「事故現場と家との間に道が出来てしまっています。今後息子さんが保育園や学校に通う時悪い影響が出ます」
「どんな?」
「旦那さんが持っていった右手と息子さんの体が1つになろうとします。そうすると息子さんもその道に吸い込まれ、旦那さんと一緒にあの世の道を往復するようになってしまいます」
「そんな……」
「それに、もし道に近づかず無事に過ごしていたとしても、息子さんの右手は動かないままです。だって息子さんの右手は旦那さんが持っていったままですから」
女性は動揺を隠せなかった。しかし息子は猿番長を見つめ、時折頷きながら真剣に話を聞いていた。
「どうすればいいんですか?」
「引導を渡すしかありません」
「引導?」
「引導とは人を導く法語です。死んだ事に気づかずこの世を彷徨っている霊に死んだと気づかせ、あの世へ導く事です」
「どうすれば渡せるんですか?」
「僕が行くよ」
息子がきっぱりと言った。
「そうか、やってくれるか」
「うん!」
「偉いぞ」
「パパのためだもん」
「いい子だ」
猿番長は息子の髪がぐちゃぐちゃになるほど撫でてやった。
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