手を貸す

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(あは、パパの手、おっきいね。僕の手がすっぽりくるまれちゃってる) 「お前なのか? 僕って、男の子なのか?」  生まれるまでのお楽しみだと、性別は聞かないでいた。そうか、男の子だったのか。なら一緒にキャッチボールをしたり出来るじゃないか。戦隊ヒーローの映画も一緒に観に行きたい……ああ、それはもう叶わないのだ。 「ごめんな、坊や。いっぱい遊んでやりたかったのに。色んな所へ連れて行ってやりたかったのに」  俺はいっそう強く息子の手を握った。とても温かい。血の通った人間の手だ。待ちに待った愛おしい我が息子。何もしてやれなくてごめん……。 (パパ、僕の手を使って) 「え?」 (パパがいなくなっちゃうなんて嫌だよ。ママだって寂しがるよ。だから僕の手を使って) 「そんな事、できるのか?」  俺は妻のお腹から手を引き抜いた。そして妻の手を握ってみた。 「え? あら?」  妻は不思議そうに自分の手を見つめた。 「パパに手を握られたのかと思ったけど、あの人は仕事に行ってるのよね。パパが好きすぎて思い出しちゃったのかな? 変なママね」  そういって妻はお腹を撫でた。少し頬をピンクに染めたその笑顔を、悲しみの涙で濡らして欲しくない。 「坊や、少しの間だけ借りるぞ。行ってくる」 (うん、パパ頑張ってね!)  俺は寝室に行き資料を手にした。しっかりと握る事が出きた。俺は猛スピードで家から飛び出した。家も、電信柱も、通行人さえも突き抜けて進んだ。急がなければ。  ちらりと腕時計を見た。あと5分だ。俺は舌打ちをし、最期の力を振り絞って加速した。  いた。真っ青な顔をして運転しているのは「俺」だ。周りなんて見る余裕もない。信号は赤だ。ちょっと待て、落ち着け。資料はここにある。止まれ、すぐに届けるからーー。  ガシャーン!!
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