動かない手

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動かない手

「息子の右手が動かないんです」  女性の膝の上にはぷくぷくとした赤いほっぺの男の子が座っていた。 「病院で診てもらいましたか?」 「はい。あちこちの病院で色んな検査をしてもらいました。でもどこの病院でも異常はないといわれました。この子が生まれる前に夫を亡くしまして、それで私が不安定だから息子に影響しているのかもしれない。お母さんしっかりしてください。そんな事をいう医者もいました。私は息子のためにとすっかり立ち直っています。息子の手が動かないのは私のせいだなんて。全く失礼な医者でした」  女性の向かい側に座る男性はSNSの世界ではちょっと名の知れた霊能力者、猿番長だった。気が向かないと相談には乗らない。乗ったとしても歯に衣着せぬ物言いに、更に悩まされる相談者も多数いる。 「思っていたよりお若くて驚きました」  まだ20歳くらいだろうか。自分よりも年下の霊能力者に少々戸惑いながらも女性は続けた。 「亡くなった夫が関係しているのかもしれないと、何人かの霊能力者さんにも相談しました。特別な供養をしますからと高額なお布施を請求されました。戒名がいけないといわれ新たな戒名を付けるからと、やはり高額を請求されました。親身に相談に乗ってくれたのは最初だけで、あとは高い観音像や水晶玉を無理矢理押し付けてきて。これから1人でこの子を育てなければならないのに貯金もなくなってしまいました。もうどうして良いのか。そしてようやく猿番長さんに辿り着いたんです」  目頭を押さえる女性には目もくれず、猿番長は男の子に顔を近付けた。 「坊や、いくつかな?」  男の子は恥ずかしいのか母親にしがみついた。しかしちらりと振り向き、左手でVサインをしてみせた。
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