真相は闇の中。

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真相は闇の中。

 一時間後。会計を待つ間、先輩に今日起きたことを説明した。ふうん、と俺の顔を覗き込む。 「俺は幻覚を見たのでしょうか。それとも霊的な存在だったのかな」 「霊や妖怪、怪異の類じゃない。あの部屋にそういうものが出入りをした痕跡も気配も感じなかった」  先輩はきっぱりと否定をした。そうですか、とその言葉を信じる。なにせこの人は異様に霊感が強い。俺には見えないものをよく避けたり追い払ったりしている。一方、墓場の近くは平気で通る。供養された霊しかいないから怖くないそうだ。それは逆に霊感があるという裏付けに聞こえた。 「むしろこの病院全体から不自然な程、そういう気配を感じない。死と隣り合わせだから大抵、漂っているのにね」  そうですかと呟く俺に、困ったねと先輩は腕を絡ませた。 「霊的存在でない以上、君が幻覚を見たか本当に老婆が侵入したかの二択になる。前者であればまだ救いはある。勿論、症状が長引くようならマズイけど、治療という道がある。最も怖いのは老婆が実在した場合だ。不法侵入。暴行。実際、君は危ない目に遭った。だけど問題はそれだけじゃない。どうして監視カメラに写っていないと言われたのか」  急激に背中へ悪寒が走る。え、と言う声は掠れた。 「同室の患者は何故頑なにカーテンを開けなかったのか。どうして師長さんはあの場で退院を決め、先生に話を通すと約束出来たのか。老婆が君に渡そうとした物は何だったのか。もしかしてだけどさ、大きさ、このくらいじゃなかった?」  先輩が空いている手で自分の頭部を指差した。確かに風呂敷包みの大きさはそんなものではあったが。  先輩、と震えが止まらなくなる。 「怪異が全く蔓延らない病院に謎の包みを渡そうとする婆が現れ、そいつの存在を病院関係者は隠そうとしている。そんな話は怖すぎるね」  その時、俺の番号が呼ばれた。さて、と先輩が立ち上がる。 「事情はともかく私は君と帰れるから万々歳だ。とっととおさらばしちゃおうぜ」  しかし俺は立ち上がれない。今の話が怖かったせいもあるのだが。先輩、と情けない声で呼び掛ける。 「なんじゃ」 「帰るのはいいのですが、一つ問題があります」 「何」 「ボルトを入れたから、一年後、摘出手術を受けなければならないのです。この病院で。つまりまた、最低二泊はしなければなりません」  途端に先輩が吹き出した。 「これから一年、また入院しなきゃいけないのかって恐怖に怯えなければならんのか」  がっくりと肩を落とすと、ドンマイ、と背中を叩かれた。そして俺の番号が再び呼ばれる。 「取り敢えず今日は帰るよ。来年のことは改めて考えよう」 「せめて個室がいい! 施錠して誰も入れない!」 「収入に余裕があったらな」 「今から積み立てます!」  その時、田中さん、と苛立った声が響いた。まずは退院が大事だぜ、と笑う先輩と共に会計へ向かう。そこで請求された金額を聞き、早くも個室は諦めなければならないかも、と絶望に至った。そして一昨日の自分に、階段を踏み外すな、色々えらいことになるぞ、と伝言を届けたくなった。
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