0人が本棚に入れています
本棚に追加
買い物の途中で立ち寄ったカフェ。そこでかき氷を食べている人を見かけ、そのひんやりとした印象に、私もかき氷を注文した。
毎日暑い日が続いているせいか、見れば、たいていのお客さんがかき氷を食べている。
私は定番のイチゴ味にしたけれど、他の味のも美味しそうだな。
イチゴにメロン、レモン、ブルーハワイ。宇治金時に練乳、あの紫色はブドウかな。あっちのオレンジはマンゴー?
色から判断できる味。でも中に一人だけ、何味のかき氷を食べているのか判らない人がいた。
赤というにはかなり黒ずんだ色合いのかき氷。
あれは何味なのだろう。
まったく想像がつかなくて、チラチラとそちらを窺っていたら、かき氷を食べ終わったそのお客さんが席を立った。
会計は先に済ませるシステムのお店なので、そのまま出入口へ進んでいく。その途中、そのおきゃさんがふいに進む方向を変え、私の方へやって来た。
あまりにじろじろ見ていたから、何か文句を言われるのかも。
そう思った私の席の隣に立つと、その人は小さな声でこうささやいた。
「あなた、私が見えてるのね。私が食べていた物も。あれの味が気になった? だとしても、あれはあなたが食べていい物じゃないわ。だって『共食い』になるから。
あなたは目の前にあるその品を楽しみなさい」
それだけ言ってその人は店を出て行ったのだけれど、その時私は見てしまった。ガラスの扉が完全に閉まった直後、その人の姿が忽然と消え失せるのを。
店から出るなり消えた人と、食べない方がいいと言われたあのかき氷。もう、目の前の品に手をつけられなくなるくらい、全身が恐怖で冷え切ったよ。
かき氷…完
最初のコメントを投稿しよう!