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アリステリアは、それから毎日やって来た。
機械仕掛けの時計が入ってるんじゃないかと思うくらい、正確に。玄関の扉は開けられ、閉じられた。
彼女は非常に優秀な頭脳の持ち主で、メンサのメンバーに5歳で登録された天才だった。でも社会に馴染めず、私のお相手に選ばれた。
"Elementary, my dear Ren"
アリステリアは、このお気に入りの台詞を呪文のように、パパのあと1回と同じように、繰り返した。
「初歩的なことです。レンさん。」
親愛を精一杯込めて、丁寧に発音される辿々しいアリステリアの言葉は嘘がない。澱みなく溢れる、同級生達の気の利いたおしゃべりについてゆくよりもずっとずっと安心できた。
彼女のからくり人形のような動きも、視線を合わせられず、キョロキョロと目を動かすことも、すぐに気にならなくなった。
「いいえ。それは、違います。レンさん。」
「レンさんの感情は。私には。理解できません。」
10歳の子どもだからと、他の大人達のように態度を変えることもない。明快に答えるアリステリアは、いつもアリステリアだった。
時々、予測不能な事態に陥ることもあった。そんな時彼女はパニックを起こして、身動きがとれなくなってしまう。
そういう時は、私の出番だ。
キャプテン・リードに連絡をしたり、落ち着くのを待ってどうしたら良いか教わっていった。次第に慣れてくると、案外シンプルな対応で充分だとわかった。
何が苦手なのか、どうしたら克服し易いのか。
「レンさん。あ、ありがとう。ご、ございました。」
おさまれば、丁寧に子どもの私に対してもお礼を言った。本当に、救われたという気持ちが伝わってくる。そんなありがとうだった。
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