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パパ
「あと一回やってごらん。漣。」
パパは、優しい口調で、それでいて決してNOと言わせない口調でそう言った。
パパは、日本語を教えてくれる大切な先生なのだ。これはアリステリアは出来ないし、そもそも他人の感情が理解できない彼女なのでそういう類いの勉強には向いてない。
「帰ってきたら見てあげるから。」
それから私の頭に、ポンと大きな柔らかな手をのせてから玄関ドアがパタンと閉まる。
このドアが次に開くまで、結局何回もやる羽目になるんだけど。
いつもと同じ朝だった。
いつものように、アリステリアも時間にぴったりと現れ、そしていつもと同じ時間にきちんと帰っていった。
ちょっとだけ違ったのは。
パパがその夜、帰らなかったこと。
再び玄関のドアを開けたのは。
キャプテン・リードだったこと。
パパはその日、爆発に巻き込まれて死んだって。
遺体は、ばらばらになっちゃって戻って来ないって。
そんな風に、説明されたようだった。
キャプテン・リードが、説明してくれたようだった。
でも私の目から。
あの時みたいに、水が溢れてくることははかった。
もう枯れちゃったのかなって、思ったくらい。
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