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「とても。合理的な選択です。レンさん。」
アリステリアは、いつもと変わらず丁寧に最後のお別れの挨拶をした。いつもと同じ、帰る時間に。
「アリステリア先生、ありがとうございました。」
「ど、どういたしまして。レンさん。」
「泣いているの?アリステリア先生。」
「泣いて、いる?あ…目から、水が出ています。なぜだか。自分でも…わかりません。」
彼女は驚いていたが、パニックにはならなかった。
本当に不思議そうに、目から溢れた水を拭っていた。
彼女はそれからちょっと考えて、バッグの中から一冊の本を取り出した。
「鏡の国の。アリスです。」
「ルイス・キャロルの?」
「そうです。ルイス・キャロルです。ルイス・キャロル。本名は。チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン。1832年にウォリントンで生まれました。アナグラムや鏡文字の創作の才能があり、その著作は…あ。これは。関係のない話です。」
「この本を、私に?」
「この本は。私が5歳の時の。父からの誕生日プレゼントです。レンさん。」
「そんな大切なものを?」
「あ。もう私には必要あり、ありませんので。」
「必要ないって…。」
「あ。全て。頭に入って。いますから。レンさん。」
「でも。」
「レンさん。あなたには。文学を上手く。教えることが。で、できませんでした。これは。よくないことです。私は。レンさん。あなたの先生です。先生が。教えられないのは困ります。ですので。鏡の国の。アリス。鏡の国のアリスです。教材にと。いつも持っていました。でも。もう教えることは。できません。レンさんは。日本に戻るからです。なので。これは教材です。レンさん。」
「ありがとう…。アリステリア先生。」
アリステリアはいつものように、きちんと身支度をして、狂いなく同じ時間に扉を閉じて去って行った。
「さようなら。レンさん。」
いつもの挨拶を、完璧にこなして。
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