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電車とバスを使い、9時間かけて実家に到着した。
2月下旬でも既に暖かいこの地方。
時期外れの上久しぶりの帰省で、何も考えず厚着をしてきた自分にため息をつく。
台風の時ぐらいしか閉めない雨戸が、閉まっている。
郵便物は溜まっていない。
俺は玄関の鍵を開け、家の中に入った。
綺麗すぎるリビング、キッチン。
洗濯物も干していない。
カレンダーが先月のままで、まるで時が止まっているかのような空間。
オカンは……仕事か?
俺はオカンの携帯に電話をかけるが電源が切られているようなので、会社に電話をかけてみた。
息子と名乗ると、しばらくお互い電話越しに頭を下げあった。
そして『お母様でしたら、2月上旬からずっとお休みされていますよ』と返答を貰った。
ずっと休み?
昨夜は家にいると言っていたのに、布団も仕舞われ、生活していた形跡がない。
まさか本当にオカンは大病を患っていて、入院しているとか……!?
だったらお隣の今井さんが知っているはず!
俺は慌てて玄関へ向かい、サンダルを履いてドアを開けた。
「ぎゃあ!え、あ、ぎゃあああ!」
ドアの向こうに立っていたオカンは、急にドアが開いたことに驚き、想定外の人間が家から出てきたことにまた驚き、近所に響き渡るような大声をあげた。手にはキャリーバックと沢山の紙袋。
「どうしたの、有希ちゃん。今、帰ってきたのね。あれ、りょうちゃんじゃないの」と隣の家から出てきてすぐに引っ込んだ今井さんは、沢山の郵便物を抱えて再び出てきた
他にも「有希さん、お帰り。お疲れ様」とぞろぞろと近所のおばちゃん達が申し合わせたように集まってきた。
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