1年 冬

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寮に帰った俺は、1人暗闇の部屋の中で佇んでいた。 どんな風に病院を出て、ここに帰ってきたのかも覚えていなかった。 母親のこともあって、あまり実感が湧かない。 これからどうすればいいんだろう。 何を大事にすればいいの? 何を思ってこれから生きたらいいんだろう。 どうせ何かやってもすぐに死ぬ。 空っぽだった感情が、どんどん渦巻いていく。 お母さんは? 学校は? 友達は? 俺のこれからの人生は? 未来は? 将来は? ……なにもないの? ぐるぐる考えていると、携帯に一つの着信が入った。 山ちゃんからだった。 俺は無意識に着信ボタンを押していた。 「………もしもし?」 『今大丈夫か?今から鍋パするんだけど、志摩も来るか??』 「行きたいけど…鍋パって何人来んの」 『志摩だけだけど』 「ふはっそれパーティじゃないじゃん」 『細かいことはいい。来るなら待ってる。あ、あとなんか具材あったら持って来い。じゃ』 ツーツーツー………… 自分以外いない部屋の中で、電子音が携帯から響く。 最初から誰もいなかったのに、さらに孤独感が増す。 この世界に自分一人だけだと錯覚してしまう程に。 しばらくして、声が聞けて嬉しいって感情と、こういう会話もあと少ししかできないんだって感情が混ざり合う。 気づくと、視界が歪んで見えた。 自分の疾患が分かった時でさえ流さなかった涙が、取り止めもなく溢れて来た。 俺の少なく儚い山ちゃんとの思い出が、走馬灯のように流れた。 もっと山ちゃんと喋りたい。 もっと山ちゃんと色んな所行きたい。 もっと、もっと…… まだ生きていいのかな。 生きていたい。 死にたくない。 ……生きたい。 もっと山ちゃんと…山代淳矢と一緒に生きたい。 なんで俺は……俺なの? 俺は1人部屋の中で静かに泣き続けた。
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