やさしい風

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1.守ります 「96、97、98、99、100!」 「ぶはーっ!」 汗しぶきを散らしながら。 剣道着の2人は、素振用の重い木刀を置く。 ゼイゼイと肩で息をしながら、視線を交差させた。 「錬、おまえのテンポ早過ぎや。 もうちょお丁寧にやらんと。雑んなってまうやん」 「付いて来れへん方がヌルイんや」 「オレ1限目の英語あたるんやった。 ノート写さんといかんから。先、行くで」 剣道部のルールは、長髪禁止とだけなっているので。 2人は坊主頭にはしていない。同じような短髪だけど。 雰囲気は正反対。 ちょっと目尻が下がってて優顔なのが、古張主一で。 融通が利かなさそうなキツい眼つきなのが、縣百錬だ。 「そんな焦らんでも。 まだエエやろ。ちょお元立ちやってえや」 そんな軽い口調で登場した女性を見て。 どっと2人の汗が噴き出す。 「灯さん」 「何ンかあったんですか? いつ戻ってたんですか?」 「春の新人受入れでな。 今、稽古場使えへんから。 休み取って、家戻ったんや」 灯はニコっと笑う。けれど。 がっしりとした身体の厚みは、2人に負けていないし。 如何にも熟練者と言う余裕を醸し出している女性剣士。 いつの間にか。 姿勢を整えて。 手拭いを巻き、面を着けている。 竹刀を手に、すっと立ち上がる姿は。
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