#1「 再会 」

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 向けられるカメラのフラッシュと拍手が小っ恥ずかしいのか、喜びも控えめに目を細めて微笑む彼。私は足元の床が崩れたのではないか、という錯覚と共に目を丸くして、驚嘆(きょうたん)する。  なんで、なんで、と驚きのあまり、声にならない声が、私の口から漏れ出る。ふらふら、と足元から倒れかけたのを、偶然こちら側を見やった夫の賢人が咄嗟に支えた。 「…晶?どうした」 彼にしては珍しい、気遣う言葉。その時の私には、その自身の態度の異様さに、全くって自覚がなかった。  やがて、彼、新谷は会場の前方に用意されていたグランドピアノの椅子に腰掛けると、弾き始めた―――。
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