#1「 再会 」

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誤魔化そうとしたのか、あるいはとぼけようとしたのか。私自身にも分からない。彼はそこで初めて私を振り返った。 「……ピアノ、お嫌いで?」 呼吸を忘れたように私は、何の感情も見せていない彼の顔を見上げていた。 ―――ワタシガ、ヒカリダトキヅイタノ? 口をパクパクと開閉し、答えに(きゅう)した。 ―――何と、答えればいい?  いっときの間、私は水面の呼吸出来なくなった魚のように言葉を失っていたが、やがて苦しむように顔をしかめると、全くもって奇妙な、実に奇妙に笑みを顔に見せていた。 「…ぇ…っ」 辿り着いたのは、子どものような演技だった。
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