電話越しの

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 久世も生田の怒りに気がついて、動揺した声で応える。 『……雅紀。本当だ。俺は一人で……』 「うん、誰と?」  久世は答えない。 「誰といたんだよ? 男か? それとも女か? あの女じゃないことはわかるよ。だったらこんな反応はしない。別のやつだ。誰だよ!」  生田は燃え上がる嫉妬を隠すことをやめた。 『……雅紀の考えるような相手ではない。関係は……違うんだ。本当に何もない……俺の記憶の限りでは……そう、あの時も向こうからだから俺ではない……だから……』 「なんだ? 何を言っているんだ? どういうことだ? 透は本当に嘘をつけないな。僕に言いにくいことがたくさんあるようじゃないか!」 『本当なんだ。趣味が同じで、ただ話していただけで』 「誰と?」 『山科さんとだ』 「山科、何? 男?」 『……晶さんだ』  生田は舌打ちした。 「どっちとも取れる名前だな! 話していただけってなんだよ? それなら言えないことはないだろう? 俺の記憶では何もないってどういう意味だ? 記憶がないだけで何かはあったということか?」 『俺からは何もしていない』  生田は笑った。おかしくもないのに笑うしかないという笑いだ。 「つまり、同じ趣味でたくさん喋る相手でありながら、記憶をなくすほど身体でも付き合いのある相手ということだな?」 『違う!』 「俺からは何もしていないって、それでも結局ヤッたってことだろ?」 『そうでは……』  久世は否定の言葉を言えずに途中でとめた。
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