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久世はグラスを手に持ったまま、何度目かの驚きの目を西園寺に向けた。
「山科晶だ」
久世を見て再びニヤニヤとした含みのある笑みを浮かべた西園寺は説明を始めた。
「元は俺の婚約者になるはずだった。が、俺の親父は意外とお前のことを気に入ったようでな。お前の爺さんじゃなくて、そのまま自分の派閥に置いておきたいらしい。その晶はうちの親父を援助してる財閥のうちの一つ、山科家の一人娘だ」
久世は晶の方へ振り向いたが、晶は腕を組んで立ったまま微動だにしない。
「晶も飲めよ。あと、二人とも座れ。なんだこの状況」
西園寺は陽気に言った。
「シャンパンがいい」
晶が初めて口を開いた。中性的な見た目とは裏腹に女性的なその声は、ソプラノ歌手のように澄んでいる。
西園寺は備え付けの電話機を取り上げて注文した。
晶は近くにあった一人掛けのソファに腰を下ろすと、煙草に火をつけた。
サングラスで視線はわからないが、なぜか久世は見られているような気がした。上から下まで、まるで値踏みでもするかのように。
シャンパンが届けられたが、二人は座ったまま動かない。見かねた久世が台車を運んできて、コルクを開けてグラスに注ぐ。
「俺は要らん」
西園寺が言ったので、久世は二つのグラスに入れた。
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