婚約者

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 手に持ったまま、晶に手渡そうか躊躇っていると、晶は立ち上がって近寄ってきた。そしておもむろにシャンパンボトルの方を手に取って、ラッパ飲みをした。 「……こんなもんか」  半分ほど一気に飲んだ後そう言った。  西園寺は笑い声を上げた。 「紹介は済んだようだな」 「いや、まだ……、あの……久世です」  久世が晶に向かって、おずおずと言った。 「知ってる」  晶は無表情のままそう言うと、再びボトルをラッパ飲みした。  10秒ほど沈黙が下りた。 「……なんだよ、邪魔か? 俺は消えようか?」  西園寺が笑いながら言う。 「……雅紀のことを話せ」  久世は西園寺を睨みつけて言った。 「ああ、生田くん!」  西園寺は今思い出したような仕草をした。 「これ以上話すことがあるか? 生田くんは我が子を身籠った女のために青森へ馳せ参じた。そして謝罪とプロポーズ。来月子どもが生まれたら三人で新生活。以上だ」 「……何を言っている」  久世はその説明を受け入れられず、混乱しながらも、なぜか本当のことのような気がして震え始めた。 「事実だ」  西園寺は飄々とした様子だ。 「なぜ俺が知らないことをお前が知っている!」  久世は声を荒げた。
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