二杯目

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二杯目

 久世は初めて生田に対して怒りを覚えていた。  生田から通話を切られたが、数秒遅かったら自分から切っていたと思ったほどだった。  生田は久世と比較すれば激昂しやすいタイプで、いつも生田が勝手に嫉妬して怒りに駆られ、久世に詰め寄ってくる。あとになって謝罪をするが、反省を見せても繰り返す。  久世はそんな生田に対して不満に感じることはあってもすぐに許してしまうし、苛立ちを感じることも少なく、声を荒げて怒りをぶつけるようなことも一度としてなかった。  しかし今回は違った。  嘘をつこうとした俺も不誠実だっただろうし、正直に言えないようなことをしたかもしれないが、故意にしたことは一つとしてない。説明しようとしても詳しく聞かないまま一方的に責めるのはおかしい。  なにより雅紀は何も言わずに目の前から消えた。それについては何も話してくれない。  再会すればしたで以前に戻ったような態度で迎える。それでも結婚すると言うし、妻の元彼に嫉妬してわざわざ電話をかけてもくる。雅紀の方が不誠実ではないか。  久世は生田だけでなく全てのことにも怒っていた。  流されやすく、断りきれない自分自身のことも嫌悪していたが、自分からは一切関係を持とうとしていないのに、なぜか四方から言い寄られ、媚薬を盛られてまで身体を求められる。  父も西園寺議員も勝手に婚約の話を決めてくる。なぜ自分の将来を勝手に決められるのか。久世の家に、首相の孫に生まれたのは自分のせいではない、もう放っておいて欲しいと思って苛立っていた。
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