二杯目

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 久世が心から求めたものは生田だけなのに、生田を手に入れられないばかりか、周りは久世を求めて詰め寄ってくる。  久世は心底うんざりした。  もう何もかもどうでもいい。ただ一人になりたい。酒を飲みながら好きな映画でも見て眠りたい。  そう思った。  それ以外何も考えず、考えようともせずにその足で自邸へと帰った。  離れについてシャワーを浴び一息ついていたときに、母屋から女中が来て、食事は母屋に用意してあると告げた。  父母と同席するのだろうとぼんやりそう考えて、久世はどうとでもなれという態度で言われるがままに向かった。  久世には妹がいる。しかし高校入学の年にイギリスの学校へ進学して以来、大学もそのままなので、かれこれ六年も会っていない。父母との食事も父が入院する前以来だから、最後に共にしてから一年以上経っていた。  久世の母は精神的に弱い人で、ほとんど毎日ベッドで横になっている。共に外出をしたのは久世が小学生の時が最後だった。久世は密かにそれは父のせいだと考えていた。傲慢で父権的な父が、母を抑圧し続けていたのだろうと。しかし久世にはどうすることもできず、たまに母に顔を出す程度のことしかできなかった。父が怖いからではなく、久世もまた受け身な母の血を受け継いで、自分から反抗したり積極的に何かをすることができない性格だったからだ。  久世は父母と久しぶりに食事をしている席で、目も合わせず会話もしない両親を眺めながら、様々なことを考えていた。
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