婚約者

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「おいおい、聞いていないのか? 悠輔!」 「えっ、いや、話しただろ」 「ご紹介いただきました」  晶が割って入った。 「おお、晶さん。それでどうかな? 久世くんはうちの息子よりもしっかりしているだろう? 悠輔はあんな顔になってしまったからもう政界には出られない。しかし久世くんはどうだ? 優秀だし、器量も悪くない」 「はい。ありがとうございます。お父様もいいお話だと申しておりました」 「ほう。そうか。……それはよかった」 「ですが、久世首相には内密に、というのは難しいのではないかとも申しておりましたが」 「……その話だが、私が二人を引き合わせたのではなく、純粋に若者の自由恋愛で、ということにできないだろうか」 「……承知しました」 「いいのか?」 「異存はありません」 「さすがは晶さんだ。話が早い! ありがとう。……ということだ、久世くん」 「はい!」  目の前の会話を理解しようとするのに必死で、全く処理が追いつかないでいた久世は、ただ癖で返事をした。 「久世くんも話が早くて助かるよ。それでは」  そう言って英輔は立ち上がった。 「晶さん、またお会いしましょう」  英輔は晶に微笑みかけると、ドアに向かって歩き始めた。  久世は、慌てて追いかけた。 「お待ち下さい!」  呼び止められて、英輔は足を止めた。
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