婚約者

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「だめだ。親父が帰ってくるまで家で過ごしてもらう」 「……いやだ」  西園寺はここで少し間を開けた。考えているようだった。 「仕方がない。俺も付き合おう。めんどうだがたまにはいいだろう。夜はBに行けば文句ないだろ?」 「それならいい」 「よし」  そう言うと、西園寺も立ち上がった。晶と共にドアに向かう。ついてこない久世に気がついて振り返る。 「おい、帰るぞ」  久世は頭を抱えたまま動かない。 「透!」  西園寺が怒鳴り声をあげた。  久世は肩を震わせ、ようやく立ち上がった。  三人でホテルを出る。来たときのように晶が運転して、赤のジャガーで西園寺家へと向かう。  婚約者だなんてどうでもいい。  雅紀が結婚したということが事実なのか確かめたい。  それ以上に、雅紀に会いたい。  元気なのか、落ち込んでいないか、あの笑顔が歪んでいないか、それだけが気がかりだ。  久世は今にも車を下りて、空港へと向かうタクシーに乗りたかった。一刻も早く青森へ飛んでいきたい。  しかしそれは叶わず、ジャガーは西園寺家の敷地へとゆっくり入っていった。
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