クラブBootleg

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 名を呼ばれて、それぞれ手をあげて応えた。 「透、座れ。こいつらも同じだ。ここは何をしてもいい場所、というか、むしろする場所だ」  久世はおずおずと、西園寺の隣に腰を下ろした。すると西園寺は久世に耳打ちした。 「失恋はこういうところで癒やすもんだ」  久世はこの場の空気に圧倒されて、一瞬忘れかけていた生田のことを思い出した。  こんなところでこんなことに時間を費やしている場合ではない。青森へ行かねばならない。  会えなくても、本当に雅紀がいるのかどうかを確認したい。少しでも元気な顔を見たい。  早くここを出て空港へ向かおう。  久世はそう考えて立ち上がろうとした、その腕を左に座っていた西園寺が右手で掴んだ。 「透、親父が帰ってくるまでは我慢しろ」  西園寺は笑顔でそう言ったが、目は威圧するように久世を見据えている。 「なぜだ」 「……俺の親父が気づかないとでも思ってるのか? 自分の秘書官が誰と住んでいるのか。最初は首相の孫だから、すっぱ抜かれても首相の傷になるだけだと思って放っておくつもりだったようだが、ホテルでのことでわかっただろ? そうじゃなくなったってことだ」  マモルが酒の入ったグラスを渡してきた。  久世は差し出されるがままにそれを受け取る。  西園寺は煙草に火をつけると言った。 「今すぐ青森へは行くな。生田くんの居場所と、去った理由がわかって安心できただろ? ジタバタと動き回るのはやめろ。とりあえず俺と晶といるんだ」
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