クラブBootleg

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 久世は床に座り込んだ。頭を抱えて髪をめいいっぱい掴んだ。  もうここを出よう。わずか一夜でこの有り様だ。  青森へ行くなと言われても知るものか。祖父(じい)さんや西園寺議員が困ろうが俺には関係ない。  クビになろうが絶縁されようが構うものか。雅紀に一目会えるのなら何もかもどうでもいい。  久世は優柔不断にも流されていた自分が心底嫌になった。  こんな気持ちで生きているくらいなら、どんな目に遭っても自分を許せる生き方をしたい。  久世は立ち上がり、再びシャワーを頭からかぶったが、今度は冷水にした。そのつもりはなくても反応してしまった身体を冷やすためだ。  しばらくそのまま浴び続けて、落ち着いてくるとタオルで身体を拭いた。バスルームの籠の中に、昨日着てきた自分の衣類を見つけたので、それを着る。  意を決して寝室へ戻ると、西園寺と晶は真っ最中だった。  久世は意表を突かれたが、晶はあのままでは収まらなかったのだろうと思い至り、二人を邪魔しないようにとこっそり寝室を出た。  呼び止められるかもしれないと少し緊張したが、盛り上がっていたようでその心配は不要だった。  久世は心から安堵して、西園寺の離れの建物自体を出た。そのまま歩いて門を出ると、タクシーを探して飛び乗った。  自宅へ帰った久世は、着替えをしてから、急いで荷物をまとめた。いざ空港へと、向かおうとしたその時、スマホが振動した。
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