青森

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青森

 久世は俊介の自宅前にタクシーを乗り付けた。  アパートから出てきた俊介がタクシーのトランクに荷物を乗せると、後部座席に乗り込んだ。車は空港に向けてゆっくりと発車した。 「よお」  俊介が緊張した面持ちで久世を見た。 「悪いな」  久世は微笑してそれに答える。 「なんで? ただ帰省するだけだ」 「日帰りでか?」 「……明日も休みだ。……明日の朝、病気になるから……」  久世はそれを聞いて笑った。俊介はホッとした様子を見せ、そのまま共通の知人についての話題を持ち出したりして、会話を誘った。  生田のことは話題に出さないまま、二人は青森空港へと到着し、そこからタクシーで俊介の実家アパートへと向かった。 「誰もいねーよ。親父はまだ定年前だから会社だし、母さんはパートのはずだ。確かカレンダーに書いてある……あった。今日は……3時までらしい。今1時だろ。まだしばらく帰らん。気にせず入れ」  俊介は話しながら、アパートの部屋の中をずんずん進んで行って、そこら辺に積まれた荷物を足で蹴ったり手で直したりしながら、久世を居間へと誘導している。  久世は散らかった部屋を見て、片付けたい欲求に駆られながらも、促されるままに座卓の側に置かれた座布団に腰を下ろした。 「つーか、雅紀の実家って、もうないんだよな?」  俊介がお茶の入ったボトルとグラスを二つ持ってきた。
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