青森

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 国会議員の秘書官で首相の孫である久世と、法務省の生え抜きで出世街道を驀進している俊介は、そんな人物だとはまるで見えず、ただ言われるがままに腰を下ろして、出されたお茶に口もつけず、おどおどとしてうつむいているだけだった。  お茶の用意を終えて、ようやくソファに腰を下ろしたみどりが口を開いた。 「ごめんなさいね。臨月だから身体が重くて、動きが鈍くなるんです」  二人はその言葉で同時にハッとして、みどりのお腹に視線を集めた。 「……そんなときにすみません」  俊介が慌てて言った。 「いいえ、大丈夫です。……あの、失礼ですが……」  まだ自己紹介もしていないことに気がついた俊介は、遠慮もなくお茶まで出してもらったことで恥ずかしくなり、狼狽えて言葉に詰まった。同時に気がついた久世が慌てたように言う。 「すみません、紹介が遅れました。桐谷です。あの、雅紀の幼馴染の、東京の……」  言いながら言葉が小さくなっていく。 「ああ! 桐谷さん! 聞いてます聞いてます。お兄さんと同級生の方ですよね?」  対してみどりは陽気だった。 「はい、桐谷です。いきなりお邪魔して申し訳ありません」  俊介は立ち上がって頭を下げた。
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