青森

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「いえいえ。お会いできて嬉しいです。ありがとうございます。私は木ノ瀬(きのせ)みどりと申します。雅紀から聞いていたら、もっと綺麗な状態でお迎えして、何かお食事でも用意しておいたのですが……何もお出しできるものがなくて申し訳ありません」 「いえ、そんな、本当に、いきなり来たものですから」  俊介が両手を振りながら言った。 「雅紀くんにも言っていなくて、というか、連絡が取れなくて……」 「えっ? 連絡が取れないというのは……」  俊介は久世の表情を伺ったが、うつむいて押し黙ったままなので、俊介が説明した。  一週間前に東京の自宅を出て以来連絡が取れなくなっていることと、宏紀も昨夜聞いたばかりで、自分たちが知ったのは今朝だったということを伝えた。  それを聞いてみどりの表情は曇った。そしておずおずと、みどりも話し始めた。 「……雅紀は恥ずかしかったのかもしれません。その、私も悪いのですが、妊娠がわかったときに話をした様子で、雅紀は結婚してくれないだろうと勝手に判断をして、嘘をついたんです。……一人で産むつもりで、別れたんです。でも、両親が雅紀のことを探し出して勝手に連絡をしたみたいで……いきなり雅紀が来たんです。そうですね、ちょうど一週間前くらい。スーツなんて着て、玄関で土下座までして、結婚してくれって」  久世の肩が震えた。
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