青森

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「あ、今買い物に行ってます。子供が生まれるって物入りなんですよ。ベビーカーやらチャイルドシートやら。先月まで私も仕事をしていたから準備するのをすっかり忘れていて、ネットで注文しようと思っていたら、雅紀が『目で見てみないと不安だ』って言って……」  久世はそこで少し笑った。  雅紀の口癖だ。 「えーっと、じゃあ車で?」 「ええ。私もついて行こうとしたら、転職先の会社に挨拶もあるからって、一人で行ったんです。事前に候補を絞っておいたので、大丈夫だとは思うんですけど……。あ、もうすぐ帰ると思います。出ていって三時間くらい経ってますから」  そうみどりが言うが早いか、玄関の開く音がした。  久世は緊張して身体を強張らせた。それが伝染した俊介も身構える。 「あ。帰ってきたかな?」  みどりは、この無口な二人を相手に気まずい思いをしていたので、生田の帰宅に安堵して、玄関へ出迎えようと立ち上がった。  みどりが出迎えにいく姿を目で追った後、俊介と久世は押し黙ったたまま、耳を澄ませた。 「どうしたの?」  玄関口から、みどりの不安そうな声が聞こえてきた。 「友達が来てるよ。連絡してなかったんだって? 心配して来てくれたみたい。ねぇ、聞いてる? ……雅紀? 久世さんと桐谷さんだよ。あっ!」
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