青森

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 みどりの驚く声が聞こえた瞬間、玄関のドアが閉まる音も同時に聞こえた。  俊介が立ち上がって玄関に向かう。久世はうつむいたまま動かない。  俊介が玄関に向かうと、みどりがドアを開けて廊下を覗いていた。 「雅紀は?」  俊介が聞く。 「わかりません。いきなり出ていって……どうしたんだろう。あ、車に荷物を取りに行ったのかな?」 「これは?」  玄関の外に大きな段ボールが置いてある。側面にはチャイルドシートの文字が書かれている。  二人はそれを同時に見て、みどりが言う。 「もう一つあるのかも」 「……見てきます」  そう言って俊介は駆け出した。エレベーターに向かおうとして止まり、キョロキョロと探してから、階段の方へ走っていった。  みどりは段ボールをどうしようかと考えて、リビングに戻って久世に声をかけた。 「すみません、お願いできますか?」  みどりは笑顔で聞いた。  久世は顔をあげて、みどりの顔を見る。  みどりはその久世の表情を見て動揺したように笑顔が消えた。  久世はゆっくりと息を吐くと、立ち上がってみどりに向き直った。 「どうしました?」 「あの、雅紀が……段ボールが……」 「……運びましょう」  久世は察して玄関へ向かう。ドアを開けて状況を理解すると、軽々と持ち上げてリビングへと運んだ。
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