青森

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「ここでいいですか?」 「あっ、はい。ありがとうございます」  みどりは落ち着かない様子で答えた。  段ボールを置いた久世は何をするでもなく立ったまま、うつろに壁を見ている。  みどりは、そんな久世を伺うようにして近づいて声をかけた。 「……あの、久世さん」 「……はい」 「雅紀と何かあったんですか?」  久世はその言葉でハッとして、なんでもない振りをしなければならなかったと気がついた。  表情を作ってみどりに向き直る。 「……少し喧嘩をしたんです。そのままいなくなったから、少し気まずいだけです」  久世は精一杯笑顔で言った。  みどりは女性の勘を働かせなくても、その言葉は嘘だと気づいた。しかし、何があったのかまではわからない。 「それで出ていったの? まさか」 「……そうかもしれません。かなり……その、大喧嘩でしたから」  久世はおどけたような表情を作ってみどりに向けた。  しかしみどりは真剣な表情のまま考え込み、ソファに座った。 「私はいない方がいいかもしれません。俊介が連れ帰ってくれるでしょう。雅紀の機嫌が直ったら戻ってきますから、ここに連絡をしていただけますか?」  久世はそう言って名刺をみどりに差し出すと、返答に戸惑うみどりの言葉を待たずに部屋を出ていった。
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