青森

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「雅紀!」  俊介は生田の背中を捉えた。マンションは幹線道路沿いにあり見通しがいいため、歩道を進んでいく生田の姿はすぐに見つけることができた。生田の歩く速度は速かったが、俊介は走って追いついた。 「……逃げるなよ」  俊介は生田の右肩に手を置いて、歩みを止めさせた。 「雅紀……宏紀に連絡した時点で予想しておけよ」 「……してたけど、早くない?」  生田がつぶやくように言う。  俊介はわざと笑い声をあげた。 「あいつはそういう男だろ」 「……でもなんで俊介まで……」 「あいつ一人で行かせられるかよ。一人で来てたら何もできないまま何日も呆然としてたぜ、きっと」  生田は反応を返さない。 「お前も、本気で逃げるつもりはなかっただろ。車に乗ったかと思ってヒヤヒヤしたぞ」  生田はそこで俊介の方へ振り向いた。  その顔は穏やかな微笑を浮かべて落ち着いている。 「……ありがとう。でもあそこには戻りたくないな。どこかへ入ろう」 「えっ? 二人をあのままにしておくのか?」 「……透はすぐに出ていくよ」  俊介はその言葉でマンションの方を見た。目を凝らせば入口を出入りする人影くらいは見える距離だった。  数秒ほどそのまま見ていると、久世らしき人物がマンションから足早に出てきて、こちらとは逆の方向へ歩いていく姿が見えた。 「うお、マジだ」
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