青森

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「……なんで透に何も言わずに……」  俊介はそう言いながら、視線を生田に戻した。  生田は眉間に皺を寄せて店の入口の方を睨んでいた。  生田のそんな表情は見たことがなかったので、俊介は少し驚いた。 「……俊介は言える?」  言いながら俊介の方へ向き直り、視線を合わせた生田はまた穏やかな笑みに戻っていた。 「俺? うーん……わかんねー。俺は彼女なんていたことないから」 「早苗さんとは?」 「ああ、うん。……え、知ってた?」 「……週に一度はメールしてる仲だよ。そっちこそ知ってた?」 「ああ、そっかそっか。ははは」 「おめでとう」 「いやいや。もうすぐ遠距離になるけど。って、俺のことはいいから」 「なんで? 聞きたいな。早苗さんとの惚気話とか」 「早苗から聞いてるだろ。もういいって!」 「僕の話はした。これ以上話すことはない」 「え、いや、透とは……」  俊介がそう言うと、生田はまた店の入口の方を向いた。  雅紀は、透がこの店を見つけて入ってくることを期待しているのだろうか。  俊介は、生田を見てそう思った。 「僕はダメなやつだ。逃げることしかできない。最初はみどりから逃げて、今度は透から逃げた」  生田はそう言って笑った。
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