青森

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「……生まれてくる子は間違いなく僕の子だ。その時期は毎日のように一緒にいたからね。妊娠したかもしれないと聞いた時は、結婚なんてしたくなくて狼狽えてしまった。そのせいでみどりは嘘をつく羽目になったんだ。もう同じ過ちはしない。……できないだろ?」  生田の口元は穏やかに笑みを浮かべていたが、目は悲しみで憂いていた。  俊介はそれ以上何も言うことができず、生田がもう一本煙草を吸い終えるまで二人は押し黙っていた。 「出よう。みどりが不安になる」  そう言うと生田はいきなり立ち上がり、伝票を持ってレジへと向かい始めた。遅れて俊介も立ち上がる。  二人は店を出て、来た道を戻り始めた。 「俊介は実家に顔を出すつもり?」 「ああ。もう母さんも帰ってる頃だと思う。あ、そうそう透のやつを家に入れたらいきなり掃除し始めてさ……」  俊介は笑いながら言って、途中で言葉を切った。  生田は笑顔で答える。 「透のムズムズ病が発症したか。耐えられないんだよ。片付いていないところは」  そう言って笑い声をあげた。 「……そう言えばあいつと飲んだ翌日、起きたら妙に片付いていたのは……」 「あはは! そう、僕もその現場を目撃したよ」 「マジかよ。あいつ頭おかしいんじゃねーの?」 「病気だから大目にみてあげて」  二人は話しながらマンションのエントランスを通り、オートロックの前にたどり着いていた。
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