青森

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 生田は急に改まった表情になって、俊介の方へ向き直ると言った。 「透に会わせる顔がない。このまま連れて帰ってくれないか?」 「え、ここまで来たのに……?」 「そう」 「あいつは会いたがってる」 「僕も会いたい」 「それなら会えばいいだろ」 「……俊介、僕は透のことが誰よりも好きなんだ。透のためなら死んでも構わないくらいに愛している。……でもみどりと結婚するんだ。だからもう会えない」  生田の真っ直ぐな愛の言葉に俊介は顔を赤らめた。 「……そんなに好きなら、少しくらい顔を見たいだろ?」 「見たいよ。会いたいし、声も聞きたい。……でもそれだけだろう? それだけなんて僕は耐えられない。相手の幸福のためなら自分を抑えろとか言うけど、本物の愛じゃないと言われようが、僕はごめんだ。ただ会うだけでは満足できない。だったら二度と会わない方がいい」 「透はどうするんだ? 透のためなら死ねるって言うんだろ。その透が苦しんでるなら……」 「会う方が苦しむと思わないか? 透も僕と同じだ。僕たちは互いに友人関係では満足できないんだ」  言葉の激しさとは違って生田の表情は穏やかなままだ。  俊介はそれを見て、生田は既に覚悟を決めていることに気がついた。もう何を言っても決意を曲げないだろうということも。  俊介は諦めて、そこで生田と別れた。
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