青森

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 生田はみどりから視線を外して、窓の方を向いた。そして笑って言う。 「まだ怒ってるから連絡しないでおいて」 「えー、せっかく来てくれたのに? 会わないままでいいの?」 「いいんだよ。それであいこだ。次に来た時は会うよ」 「久世さんは東京にいるんでしょ? 荷物を取りに行ったときに仲直りしたら?」 「……そうだね」  そう言って生田はみどりに視線を戻して、みどりの頭を撫でた。しばし撫でたあと、おでこにキスをすると立ち上がり、キッチンへと向かった。 「今日は洋食でもいい?」  キッチンから生田が大声で聞いた。 「えー、毎日和食にするはずじゃん。身体にいいからって言ったの雅紀だし」 「たまにはいいだろ」 「うん、そうだね。たまには食べたいかも」 「じゃあ、仕込むからゆっくりしてて」 「わかった。ありがと!」  生田は、みどりのことを気遣って家事をなるべくするように心がけていた。その中でも得意分野である料理は全て担当している。臨月で塩分を気にするみどりのことを考えて、毎日薄味の和食にしていたが、久世が来たその日に、久世の好物である和食を調理することはできなかった。  和食だけでなく、久世のために作った料理はどれも作りたくなかった。久世が食べてくれると考えてしまいそうだったからだ。  生田は、久世に作ったことのない、ネットで調べたレシピを今日の献立にした。
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