青森

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 予想はしていた。兄に連絡をすれば、いつかは来るだろうとわかっていた。  早いと思ったのも嘘ではないが、透ならばこれくらい当然だろうとも思った。  会いたかった。一目だけでも顔を見たかった。  最後に見たのは、隣で眠る姿だった。  初めて愛し合った日の翌朝、目覚めたときと同じ気持ちを抱いた。愛する男の横で目覚めることほど幸福なことはないと、最後のその日も同じように感じた。  透と恋人になり、生活を共にするようになっても、嫌なところが見えてくるどころか好きなところが増えていく一方だった。  こんなに幸せでいいのかと怖くなるほど幸福だった。  あのまま世界が崩壊してくれればよかったのに。  そうしたら自分のこんな嫌な部分を知らずに済んだ。  自分のせいで、一人で子供を産もうとした女性がいたことを知らずに済んだ。  その女性と暮らし始めて、毎日透と比べて、透を恋しく思う自分を知らずに済んだ。  自分の子供を産んでくれるのに、その日が来るのが怖くて今にも逃げ出したいと思う自分を知らずに済んだ。  あのまま透だけを愛して、毎日穏やかに過ごせたらどんなに良かっただろう。  しかし子供は一人で出来るものではない。  男として責任は取らなければならない。  連絡してくれたみどりの両親には感謝をしている。  産む前に間に合えたのだから。生まれた後に知ったらもっと自分を責めていただろう。
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