青森

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 しかし、婚姻届を出す踏ん切りがつかない。いつ産まれてもおかしくないというのに、未だ出せないでいる。  みどりはそんな僕を責めるでもなく何も言わない。みどりも何か思うところがあるのだろうか?  透とだったら何でもすぐに話し合えるのに。  ああ、また透と比較してしまった。もうやめなければ。透のことは忘れなければならない。  忘れよう、そう思っていても、毎日毎時間、常に透のことばかりを考えてしまう。  今何をしているのか、仕事をしているのか、食事はどうしているのか、ちゃんと寝ているだろうか、僕を想っているのだろうか、と毎日同じことを考えてしまう。  透のことを考えると会いたくなって、会えないならばと声を聞きたくなって、スマホを手に持つけど思い留まって、写真を見ようとして、見たら会いたくなるからと、それも我慢をして。  二度と会えないと決意していても、連絡先も写真も、透からもらった服も時計も、捨てることができない。  会えないなら、もう会わないから、それだけは奪わないで欲しい。一生心の中想うだけだから、その想いを馳せるためのものだけは手元に置かせて欲しい。  生田は、妻と未来の子供にそう懺悔した。
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