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もう一人
久世は俊介からの電話を受けた。
『おい透、どこだ?』
「……空港だ」
『おいおい、俺を置いて帰るのか?』
「お前はどこにいる?」
『実家だよ。母さんがビックリしてたぞ。全部俺の手柄にしたけどな。てか、マジで空港にいんの?』
「ああ。他に行く場所があるか?」
『……何時の便?』
「……15分後だ」
『間に合わねーじゃん、俺。こっからだとタクシー飛ばしても40分はかかる』
「悪い」
『いいけどさ。……雅紀と喋った』
久世は息を呑んだ。
『お前に会いたいって。死ぬほど好きだって言ってた。……でも、だから会えないって』
久世はそれだけで生田の気持ちを理解した。
涙が込み上げてきて、こぼれないようにと上を向く。
『……これでいいのかよ』
俊介は納得がいかないというような声で言う。
「そういうものだ」
久世はそれだけ言うと、通話を切った。
これ以上喋れなかったからだ。
久世は青森を発って東京へと帰った。
自宅へ着くと深夜近くになっていたため、何も食べずにシャワーを浴びてそのまま眠った。
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