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「すみません。あの、雅紀にお伝えしてもらいたいことがあってご連絡しました。その、私からの連絡には出ないものですから」
『えっ? あ……うん』
「自宅の荷物はわかるようにまとめておいたから、必要なものはそこから取っていって欲しいと。段ボールも用意しておいたから、郵送するならそれを使ってくれと。あと、俺は家には戻らないので、好きなときに来ればいいと、そうお伝えしていただけますか?」
『あっ、うん。……わかった』
「それだけです。お忙しいところ失礼いたしました」
『あ! ちょっと待って、久世さん!』
久世が通話を切ろうとしたときに、スピーカーからまだ声が聞こえてきたので、もう一度耳に当て直した。
「はい」
『うーんと、えーっと、そのお……』
宏紀が言い淀んでいるのを、久世は黙って待った。
『あの、ありがとう。……こんなことを言っても仕方がないけど、その……俺は久世くんとは家族のつもりだったから……うーんと、もう、会えないのかな?』
久世は宏紀の気持ちが嬉しくて、一瞬言葉に詰まった。
「……ありがとうございます。今度そちらに遊びに行きます」
『ホント? 嬉しいな。あ、でもダメだよな、そんなの……』
「じゃあ、俊介と行きます」
宏紀は笑った。
『いいね、それ。じゃあ、来た時に沖縄の全てを味わい尽くしてもらおう』
「はい。よろしくお願いします」
久世は通話を切った。
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