もう一人

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「ははは。そんな顔をするな。……紹介する。透、こっちへ来なさい」  久世は言われるがまま、父の横へとゆっくり歩いて向かった。  そしてその女性を見た。 「櫻田(さくらだ)瑞希(みずき)さんだ。……お前の婚約者の、櫻田家のお嬢さんだ」  久世は目を見張った。紹介されて、瑞希は伏せていた目を久世に向けた。  瑞希は、美人だった。モデルのようなみどりとも、西洋の絵画か彫刻のような晶とも違う。アイドルグループのメンバーにいそうな可愛らしさというのか、明るい茶色の髪はカールされていて、頬はほんのりピンクで、唇もさくらんぼのようにぽってりと赤い。ブランド物のピンクベージュのツーピースで身を包んだ瑞希は、少女のような可愛らしい瞳で久世をじっと見つめている。 「はじめまして。久世透です」 「……櫻田瑞希です」  完璧に計算された角度だとでも言うように少し顔を傾けて、瑞希は笑顔を向けた。 「櫻田家は山科家よりも格が上だ。悪くない縁談だと思わないか?」 「……お父さんに、関係があることなのですか?」 「何を言っている。当然だろう。親父の持ってきた話だ」  久世はそれを聞いて、顔をしかめた。
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