誕生日

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 生田はそれを気取られないようにするためか、再びシャワーを出して、頭から被った。シャワーから目を覆うようにして両手で顔を抱えているが、隙間から覗く口元は、悲痛ともとれる形に歪んでいた。  久世はそんな生田を後ろから抱き締めた。  何も言わないからわからないが、何も言いたくないのならそれを尊重したい。  そう考えた。  バスルームから出ると、生田はいつも通りの陽気な様子を見せた。 「驚いた? たまにこういうのもいいかなと思って」  生田は調理していた料理を手早く温め直してダイニングテーブルに置いていく。 「……悪くはないが、帰ってきたときの様子も違っていた。その、話したくないのなら構わないが……」  久世もそれを手伝って、生田の指示のもと料理を並べている。 「それも演出だよ。効果あっただろ」  久世はその言葉で、皿を持ったまま生田の方へ振り向いた。生田はその視線を受けてニカッと少年のような邪気のない笑みを浮かべた。
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