地獄が

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 瑞希の強引さは西園寺以上で、物理的にも離さないから厄介だった。側にいるときは久世の腕を掴んだままで、相手が女性だから無理やり振り払うわけにもいかないし、強い声を出そうものなら大声で泣き出す始末で手に負えない。  久世は腫れ物を扱うように瑞希に接しなければならなかった。  二週間経った日に、久世は意を決して迎えのベンツには乗らなかった。  既に久世家のクラウンは迎えにも来なくなっていたので、歩いてタクシーを見つけると、追いかけてくるベンツも瑞希の声も無視して飛び乗った。  街中で令嬢を無碍にすることに配慮して、これまで瑞稀に抗いきれずにベンツに乗っていたが、遠慮などせず早くこうすれば良かったのだと、ため息をついた。  久世は、明日は休日だったことにも思い至り、このまま逃げてしまおうと思いついた。  運転手に、金はあるから適当に高速に乗ってくれと伝えて、シートに背を預けた。  このまま青森まで行くという考えが頭をよぎったが、行ってもどうすることもできもないし、運転手にも悪いと思って、その考えを振り払った。  しかし一度思いついてしまうと、それが頭にこびりついて離れない。  ここ二週間、次々と襲い来る事態に対処するだけで精一杯だった久世は、車内で一人になり落ち着くことができて、こんな自由は久々だと解放感に胸が躍った。
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