天国が

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 今こうやって、愛する男に触れている。相手もそれに応えて喜んでくれている。  生田は今のこの瞬間は、久世のこと以外に何も考えたくなかった。  二人で一緒にシャワーを浴びる。今度はじゃれ合うような愛撫をして、何度もキスをした。  幸せだった。  これで最後だと思うと切なくて、考えないようにしていてもそれが頭をよぎって今にも泣きたくなる。  一秒一秒が希少な宝石のようで、失いたくないのに過ぎていく。  シャワーを出すと、生田は涙を堪えるのを止めて、流れるままに任せた。  久世が気づいていたかはわからない。久世も泣いていたかもしれない。  体を拭いたときには二人とも落ち着いていた。 「お腹空いてる?」  キッチンでエプロンをつけながら生田が聞いた。 「……その姿を見ると空くな」  生田は笑った。 「じゃあ、ちょっと待ってて。30分もかからない。あ、でも掃除はしないで」  久世は笑いながらも、笑えなかった。  みどりの住む部屋を久世が掃除するわけにはいかない、それを冗談にできなかったからだ。  料理が完成して、久しぶりに二人で食卓を囲んだ。  久世は時折喉を通らない様子だったが、生田も同じ気持ちだった。  生田はみどりの話をしていない。久世が気になっていることはわかっていた。いつまでこうしていられるのかと案じていることも。  生田がとうとうその話を切り出そうとしたそのとき、インターホンの音が鳴り響いた。
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