天国が

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 二人は身体を強張らせた。  もう一度鳴る。  生田は立ち上がり、モニターのある場所へ向かう。  画面に映っていたのは男性だった。知らない顔だ。宅配便かと思ったが、スーツを着ているのはおかしい。生田がここへ来てから、男性の訪問客は一人もなかった。みどりにも父親以外に男性の親類はいないはずだ。 「はい」  生田が応答する。 「すみません、あの、木ノ瀬さんのお宅でしょうか?」 「そうですが」 「私は須藤(すどう)と申します。あの、みどりさんの職場の同僚で……」 「はい……」  みどりの同僚に会ったのは初めてだった。話を聞いたりはしていたが、女性の同僚の話ばかりで、男性については聞いたことがない。須藤という名前も知らなかった。 「あの、みどりは……あ、みどりさんは、入院されていると伺って……」 「はい、そうです。ですが、たいしたことではありません……あの、もしよければどうぞ」  生田はそう言って、オートロックを解除した。  久世の方を振り向いたが、久世も近くで聞いていたので説明はせずに、肩をすくめてみせただけだ。  久世が聞く。 「知っているのか?」 「いや、知らない。名前も初めて聞いた」  話していると、玄関のインターホンが鳴った。  生田が迎えに出る。  おずおずとした様子で須藤がリビングへと入ってきた。  生田が自己紹介と共に、友人だと言って久世を紹介する。  須藤は、須藤疾風(はやて)と名乗った。
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