天国が

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 なんの変哲もない普通のサラリーマンだ。30手前か、自分や久世よりも年上に見える。中肉中背で、スーツも量販店で売っているような地味なものだし、これといった特徴もない普通のアラサー男性だ。  自分を高く見るわけではないが、みどりと並んで遜色はないとは思っている。それに比べると、みどりと須藤は親戚の叔父と姪という関係に見える。  この男がプロポーズをして、みどりがそれを受けたのか? 他の男の子供を身籠っているのに?  生田は須藤の言葉をすぐには信じられなかった。 「驚きますよね。いや、驚かれましたよ。……生田さんのしてらっしゃるそのお顔、他にも何十と見ましたからね。ははは。しかしですね、愛情という点では負けていないと思うんですよ。……生田さんに」  おどおどとしていたはずの須藤に、いきなり挑戦的なことを言われて、生田はさらに追い打ちをかけるように驚かされた。 「いや、でも僕はお腹の子の父親ですよ」 「ええ、ですから負けないと言っているわけです。だって、一度捨てていらっしゃるでしょう?」 「は? いや、だって嘘をつかれましたからね」 「いやいや、それでも愛していたら別れないでしょ? 妊娠していなかったから、じゃあ別れるって、それって捨てているのと同じじゃないですか」  生田は驚きすぎて言葉を返せない。  久世はハラハラした気持ちで二人のやり取りを見守っている。
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