153人が本棚に入れています
本棚に追加
訪問者
生田はしばらく怒っていたので、久世はベランダで煙草を吸う生田を放置して、朝食の後片付けをしたりシーツを洗濯したりと近寄らずにいた。
放っておけば次第にクールダウンするだろう。
それにしても須藤の印象は強烈だった。煮えきらずおどおどとしていたかと思えば、夫でありお腹の子の父親である雅紀に向かって『婚姻届は僕が提出しますよ』などと宣ったのだ。
生田は須藤に対して怒りを覚えていたようだが、それは嫉妬によるものなのか、須藤の挑戦的な態度に対するものなのか、久世には読み取れなかった。
それよりも久世はこう考えてしまって、喜ぶ気持ちを抑えられなかった。
本当に須藤のプロポーズを木ノ瀬さんが一旦受けていたのなら、二人は愛し合っているのかもしれない。もし復縁したら、雅紀は木ノ瀬さんと結婚しないかもしれない。
「……みどりのところへ行かなくてはならなくなった」
生田がスマホを操作しながらベランダから戻ってきて、ダイニングテーブルに腰を下ろした。
「……何時だ?」
久世もそれに倣って椅子に座る。
「11時。病院がここから車で20分くらいだから、そろそろ準備する」
久世は答えに詰まった。
「……透、仕事は?」
生田がおずおずと聞いたが、久世は表情を硬くして答えなかったため、生田は続けて言った。
「あの……すぐ戻るから、……待っててくれる?」
久世は、帰って欲しいと言われると思って身構えていたが、それを聞いてホッとした顔になる。
「今日は日曜で休みだ。……居てもいいならここにいたい」
久世の返事を聞いて、生田も笑顔になった。
最初のコメントを投稿しよう!