訪問者

1/10
前へ
/217ページ
次へ

訪問者

 生田はしばらく怒っていたので、久世はベランダで煙草を吸う生田を放置して、朝食の後片付けをしたりシーツを洗濯したりと近寄らずにいた。  放っておけば次第にクールダウンするだろう。  それにしても須藤の印象は強烈だった。煮えきらずおどおどとしていたかと思えば、夫でありお腹の子の父親である雅紀に向かって『婚姻届は僕が提出しますよ』などと(のたま)ったのだ。  生田は須藤に対して怒りを覚えていたようだが、それは嫉妬によるものなのか、須藤の挑戦的な態度に対するものなのか、久世には読み取れなかった。  それよりも久世はこう考えてしまって、喜ぶ気持ちを抑えられなかった。  本当に須藤のプロポーズを木ノ瀬さんが一旦受けていたのなら、二人は愛し合っているのかもしれない。もし復縁したら、雅紀は木ノ瀬さんと結婚しないかもしれない。 「……みどりのところへ行かなくてはならなくなった」  生田がスマホを操作しながらベランダから戻ってきて、ダイニングテーブルに腰を下ろした。 「……何時だ?」  久世もそれに倣って椅子に座る。 「11時。病院がここから車で20分くらいだから、そろそろ準備する」  久世は答えに詰まった。 「……透、仕事は?」  生田がおずおずと聞いたが、久世は表情を硬くして答えなかったため、生田は続けて言った。 「あの……すぐ戻るから、……待っててくれる?」  久世は、帰って欲しいと言われると思って身構えていたが、それを聞いてホッとした顔になる。 「今日は日曜で休みだ。……居てもいいならここにいたい」  久世の返事を聞いて、生田も笑顔になった。
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!

153人が本棚に入れています
本棚に追加