訪問者

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「少しくらいいいじゃない。洗えばわからないでしょ」  久世が無視をしていると、久世の前に来て覗き見るように瑞稀は言った。 「元彼の彼女のマンションに泊まるなんて、そんなのバレたらヤバくない?」  瑞稀はニヤリと悪巧みでもしているような笑みを浮かべた。  面倒になった久世は、流されやすい性格も手伝って抵抗を諦めた。瑞稀をソファに座らせたあと、キッチンへ向かう。  この優柔不断さを嫌悪しながらも、久世は相手の期待に背いたり、願いを退けたりすることができない。口論したり反論することも苦手だ。この受け身の姿勢は母譲りか、と考えながらも、この場はなんとかしなければならないと決意を固めた。 「ここが愛の巣なのね。狭いけど悪くない。私たちの部屋はどこにする? 透さんの仕事場に近い方がいいわよね。霞が関? マンションなんて近くにあるのかしら」  瑞稀は一人でベラベラと喋り続けている。  久世は、淹れたコーヒーをローテーブルに置いて、瑞稀とは別のソファに腰を下ろす。 「……帰ってください」 「嫌よ」 「……なぜ来たんですか? どうしてこのマンションを知っているんですか?」 「透さんのことならなんでも知ってるわ。生田さんでしょ? 透さんの前の恋人」  瑞稀はそこで久世の反応を待ったが、知らんぷりして顔を背けているので、そのまま続ける。
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