訪問者

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「透さんこそ帰ったほうがいいよ。彼女にバレたくないでしょ? 一緒に帰りましょうよ」 「……家主を待っています」 「待つ必要ないよ。別れてるんでしょ?」  久世はため息を漏らすだけだ。 「元彼は結婚するんでしょ? 居ても意味ないじゃない」  久世は瑞稀を睨んだ。 「ああ、その目。素敵! もっとその目で睨んで欲しい」  瑞稀は言いながら、久世のいるソファへ来て、肩を擦り寄せた。 「ねえ、透さん、一緒に帰りましょう」  瑞稀がよくやる、相手の心を掴むために研究を重ねたとでもいうような上目遣いで久世を覗き込む。  そもそもなぜ婚約者がこんなところにまで来たのか。自分も招かざる客であるのに、家主が不在の時に全くの他人までもが上がり込んでしまうなんて、なぜこんなことになってしまったのか。  久世はそう混乱しながらも、周りが自分と生田のことを当然のように話しているばかりか、事情も把握していることにも薄気味悪さを感じていた。  擦り寄ってくる瑞希から久世が離れようとしていると、玄関のドアが開く音がした。  久世はハッとする。  生田がみどりの入院している病院へ向かってから一時間ほどが経っていた。 「透?」  廊下へ通じるドアから生田が顔を覗かせた。  そして瑞稀の姿を見つけると、緊張した様子で身体を強張らせた。
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