訪問者

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「はじめまして。櫻田瑞稀です。生田雅紀さんですよね? 近々子どもが産まれるご予定の」  瑞稀がそう言うと、生田は久世を一瞥した。  久世はその自分を見た目つきで、生田が不機嫌になっていることがわかった。 「勝手にお邪魔をして大変失礼いたしました。今すぐにでも帰りますからご安心ください。透さんがいなくなったので迎えに来ただけですから。こんなところに用はありません」  久世はそれまで生田の顔色ばかりを伺っていて瑞希を見てもいなかったが、そこでようやく彼女を見た。  自分には向けたこともない鋭い目で生田を睨んでいる。可愛らしい顔を憎悪で歪ませたその表情は、生田の怒りを買いかねないほどの敵意が見て取れた。 「はじめまして。僕のことは既にご存知でいらっしゃるようですね。婚約者の方ということですが、透とかなりお親しいご様子で、友人として嬉しく思います」 「そうですか、それは結構です。結婚式にはお招きしないとは思いますけれど、お祝いのお言葉くらいはいただいても構いません」 「……おめでとうございます。式はいつ頃のご予定なんですか?」 「まだ未定ですが、結婚は確定しております」  そこで久世は割って入った。 「確定はしていない! 父が勝手に連れてきただけで、俺は承諾していない」  瑞希は久世の言葉を聞いても、落ち着き払っている。 「お父様がおっしゃったことは確定でよろしいと思います」
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