訪問者

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 生田が鼻で笑う。 「……親に決められた間柄ですか」 「ええ。普通のことです。生田さんとは住む世界が違いますから、ご存知ないのは仕方がありませんけど」 「住む世界が違う? 今どき古いと言いますか、酷い言われようですね」 「……生田さんも、そろそろ透さんをお離しになられたらいかがですか?」 「離すだなんて、僕は透を捕まえているわけではありません。お互いに自由意志で行動しているわけですから」 「……自由意志? 結婚するからと言って振ったのに、未だに惑わして……透さんを弄んでいるじゃないですか!」 「弄んでなんかいない。僕たちはお互いに……」  生田は途中で言葉に詰まった。 「お互いに、なんですか? そもそも透さんに少し優しくしてもらったくらいで勘違いされていらっしゃいませんか? 友人としても不相応だということにもお気づきになられていらっしゃらないのでしょうか」 「友人に相応や不相応なんてことはない」  久世はなんとか二人をなだめようと割って入る隙を伺っているが、覚悟はどこへやら、おろおろとするばかりで無力だった。 「あなたはご結婚されるのでしょう? 私たちに関わらないでください。一般庶民が目の前をうろちょろするだけでも目障りなのに、男のくせして久世家の御曹司に手を出すなんて、何が目的なんですか? お金ですか? 役職でも欲しいの? 強欲な方ね!」  その瑞希の言葉に、生田は反応しなかった。
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