訪問者

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 久世が瑞希と生田の前に出る形で生田の両肩を掴んで、表情を覗き見た。生田は久世と目を合わせずにうつむいている。 「雅紀、聞く耳をもつな。……相手にする必要などない。何をわめこうが俺たちには関係ない」  久世は、瑞希に対して一切の関心を持っていないこともあり、彼女が何を言おうが興味もなく、また今言った言葉にも全く意識するところがなかったため、雑音程度にしか耳に届いていなかった。  生田は不機嫌になってはいても、それはこんな対応をしなければならないがゆえの不快感だろうと考えて、生田も同じように、瑞希の言葉なんて後で笑い話にでもする程度に受け止めていると思った。  瑞稀の言葉なんて自分と生田には何の関係もない、何も影響は与えない、ただ二人の口論を止めさせて、瑞希を帰そうと考えていただけだった。 「ただ結婚前に興味本位で相手にされただけの火遊びの相手風情が、いつまでもしゃしゃり出ないでください。あなたも父親になるんですから大人しくなさったらどう? 二度と透さんに付きまとわないでください!」  瑞稀がそう言い放っても、生田はうつむいたまま反論しなかった。  瑞希は言い負かしたと思ったのか、不敵な笑みを浮かべて、生田の前に立っていた久世の腕に手を巻き付けた。 「透さん、帰りましょう」  久世に向けた顔はいつもの瑞希の笑顔である。透は瑞稀の手を振り払った。
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