遭遇者

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「はい。はっ! えっ? 秘書官? 久世……首相?」  須藤は驚きの声を上げながら、名刺と久世を交互に見た。 「それでは、お忙しいところを失礼いたしました」  そう言って、久世は自分の腕に絡みついたままの瑞稀を連れて、その場を去った。  久世はタクシーを捕まえて瑞稀を押し込むと、自分もそれに乗り込んだ。 「えーっと……青森空港へ」  久世が言うと、瑞稀がパッと顔を輝かせた。 「帰るの?」 「……須藤さんとはお知り合いなんですか?」  瑞稀は笑顔を曇らせて、久世に向けていた期待の目を窓の外へ逸らせた。 「知り合いじゃないわ」 「そうは見えませんでしたが」 「人違いよ」 「……話してください」 「話すことなんてないわ」  しばらくそうやって問答を続けて瑞希は誤魔化し続けていたが、久世は冷静で粘り強かった。  タクシーが空港へ着き、降車してもまだ久世は諦めず、同じ質問を繰り返した。  辟易した瑞稀は、とうとうこう言った。 「本当に帰る?」 「櫻田さんは帰ります」 「……透さんが一緒に帰るなら、話す」  久世は少し躊躇したが、それは2秒にも満たなかった。 「……わかりました」 「じゃあチケットを買って」  久世は二人分のチケットを買った。離陸時間は30分後だったので、二人はコンコースへと向かった。
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